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FJTAニュースVol.3

2015.01.13

新年おめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

広報担当の佐藤利幸です。

 

今回はユージン先生によるダンサーの身体についてのお話です。

演奏家にとっての楽器のように、ダンサーにとって身体とは表現するための大切な道具です。年齢を重ねるごとに味わい深い音が出る楽器のようになりたいものです。

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「タンゴダンサーの年齢と身体」

 

タンゴに関わらず身体を使って何かをする場合、まず己の肉体と、その「何か」とのバランスを上手にとっていく必要があるわけですが、その為に特に気をつけている事を披露します。

一つは怪我。これはダンスを生業としている我々肉体労働者達にとって、切っても切り離せないシビアな問題です。

私の場合は当然タンゴダンスを職業としておりますので、このコラムでは僭越ながらその視点から考察させていただきます。

最初にタンゴに於ける怪我、故障について私の見聞の範囲内ではありますが、よくある事例からあげていくと、腰痛、肩痛、首痛、膝痛、女性に関しては外反母趾などの痛みも10センチのハイヒールのシューズで踊る事が主流となっているタンゴならではの怪我の一つと言えるかもしれません。

以上が所謂、姿勢や踊り方に問題があった場合に起こる事が多い事例です。

その他、事故的な怪我、故障などをあげるとすると、脛などに対する打撲、これも女性に多い怪我です。その他、足の爪が割れたり剥がれたり。

それと、これはプロよりもアマチュアの方に多い怪我なのですが、10~12肋骨の骨折。

これについての原因は明確で、発表会などへの出演の為、ちゃんとした知識、訓練のないまま、振り付けでリフト(持ち上げる)、サルト(飛ぶ)などのショー的な動きを行った場合に多く起こります。

それではまず、怪我、故障の王道、腰痛について考えましょう。

これは、年齢に関わらず、あらゆる世代の方が抱えている問題でもあると思います。

今から10年以上前、ある方からこんな事を聞いたことがあります。

「タンゴを踊ってるのだから、腰痛なんて職業病みたいなもんだ」。

確かにその頃の私も慢性的な腰痛には悩まされ、定期的にぎっくり腰にもなっておりました。20代後半という若さで。

しばらくはそういうもんだと諦めておりましたが、ある時、一つの事に気がつきました。

その頃にパートナーとなったアリサは腰痛の痛みなど生まれてこのかた感じた事がないという事実。

ステージやライブショーの為の飛んだり跳ねたり持ち上げたりする練習の後、激しい腰痛になるのは私だけ。

どんなにハードな練習をしても、アリサは依然として故障箇所ゼロなので、本当にダンサーとして理想的な身体の持ち主なのです。

そこでやっと原因について考える事になりました。

まず、私が何故腰痛になるのか?ではなく、何故アリサが腰痛にならないのか?

それはもう、私と彼女の習慣の違いでしかない事はすぐに分かりました。

ズバリ「体幹筋のトレーニング」。

私の筋トレは、大胸筋の為のトレーニングは行うものの、基本的に上腕筋、前腕筋、大腿四頭筋など、体肢筋ばかり。主な体幹筋である腹直筋、腹横筋、腹斜筋、後背筋、脊柱起立筋、僧帽筋などに関してはほぼノータッチ。特に腹筋や背筋などの地味なトレーニングは好きではなかったので、それこそ筋肉と体重、骨格とのバランスが悪かったのでしょう。

驚く事にアリサは体幹筋のトレーニングをフィットネスを始めた10代の頃から毎日欠かした事がなく、その理由についても「なんとなくやらないと気持ち悪いから」だそうです。

考えてみれば体幹筋不足が腰痛に直結するのは確かに道理ではあります。

骨を支える体幹筋が弱ければ第1~第5の腰椎に当然負担がかかるわけですから、多かれ少なかれ痛みが生じても何もおかしくない。

私も30代になりたての頃でしたので、10代~20代の時とは違い、怪我や故障した場合に明らかな回復力の低下を感じており、肉体労働者として仕事を選んでしまった立場上、少しでも故障の予防になるのならばと普段のトレーニングに体幹系を取り入れるようにしました。

するとどうでしょう。効果覿面とはこのこととばかりに腰痛が軽減されてきました。

それと、もう一つ、腰痛対策として私が注目したのは、姿勢です。

タンゴを踊ると痛む腰椎。

それについても原因を追求してみたところ、当時、姿勢を外人ダンサーに似せようと無理をして骨盤を意識的に前傾させていた事が自分の中の問題として浮き彫りになりました。

これは今現在でも多くのタンゴを踊る日本人が悩んでいる問題かもしれません。

一般的な日本人と一般的な外国人とは『腰部湾曲の角度が違う』のです。

一般的な日本人はデフォルトで腰部湾曲の角度が緩く設定されているので、それを無理に骨盤を前傾させて角度をつけると所謂「そり腰」という状態になり、第1~第5の腰椎の神経を圧迫します。それにより慢性的な腰痛となる事も想像に難くない筈です。

今までずっと前傾させていた骨盤を今度は逆に意識的にまっすぐに戻す事を心がけるようにしました。

最初は、角度をつけてない骨盤に違和感がありましたが、力を抜いて骨盤を解放し、まっすぐにする事が出来るようになると、驚くべき変化が随所に起こりました。

一つ目は慢性的な腰痛の改善、二つ目はタンゴを踊る上で、必要以上に力を使わないで踊るというナチュラルメソッドへの気付きです。

これはスタイルや方法論の話になってしまいますが、この気付きこそ、今の私の大きな財産となっております。

 

今や40歳を越えた私にとっての筋肉トレーニングとは、人前に出た時に説得力のあるカッコいい身体の形を作る為であることは勿論、怪我や故障をしない為である事が大きな目的となっております。

日本人の多くは「筋トレ」や「マッチョ」「ボディビル」などに対して、抵抗があるらしく、筋肉隆々より異常に痩せている方が良しとされている傾向があるようです。

私の意見としては、怪我防止の為の筋肉トレーニング、ストレッチは大いに行った方がいいと断言します。

ストレッチだけでも充分だと思われる方もいるでしょうが、余計な脂肪を燃やすエンジン、つまり筋肉を育てると身体に良い事が沢山あります。

筋肉トレーニングをすると脳下垂体から分泌される成長ホルモンによるアンチエイジングもその一つ。

また、男女共に筋肉量が少なければ、基礎代謝も下がり、脂肪も付き易くなる。当然体重だけはどんどん増え、内蔵脂肪、腹部脂肪がガッチリついて完全な中年のメタボリック症候群の完成です。体重の増加、筋肉の低下は骨に負担がかかり、結果、腰や膝を痛めます。

勿論、現地でも太ってて素晴らしいダンサーは沢山いますが、私が今ここで言いたいのは、私の実体験から肌で感じた事として、「この先、死ぬまで現役でタンゴを踊って行くという長いスパンで考えた場合、少しでも身体への負担や、怪我の防止が出来るならしておいた方がいい」という事です。

 

最後に、今後、我々中年タンゴダンサーが意識していかなければならない事は、10代、20代のダンサーと同じ表現を、40代~50代になってもやっていたら、当然身体にも負担が掛かるし、何よりその表現自体に違和感があるという現実に気付く勇気だと思っております。幸い、アルゼンチンタンゴは自分の年齢や見た目の変化とともに、表現の変化を許してくれる世界一素晴らしいダンスなのですから。

しかし、表現者の場合、年齢は見た目が占める部分も多々ありますので、少しでも外見的、及び肉体的、延いては表現の若さを保つ為、日々の心がけが如何に大切かと言う事がお分かりになると思います。全文に渡り、あくまで私個人の意見ではありますが。

 

今回は私の経験から感じた事を、タンゴの表現者としての目線で色濃く書かせていただきましたが、年齢や、怪我、故障などについては、タンゴを踊る方に概ね共通している事も多いと思われます。

 

多くの方が自分の身体と真摯に向き合い、自分に合った方法を見つけ、タンゴを楽しみながら健康に踊り続けていただける事を切に祈っております。

(文/ユージン)

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